たまたまマッチングアプリで知り合った人が駆け出しのホストだった…【神野藍】『私をほどく〜AV女優「渡辺まお」回顧録』
神野藍「 私 を ほ ど く 」 〜 AV女優「渡辺まお」回顧録 〜連載第9回
【「仕事を辞めてもずっと一緒にいようね」】
それから彼は私を繋ぎ留めておくために言葉を尽くして、マニュアル通りの「仕事を辞めてもずっと一緒にいようね」なんてことを言いながら必死に愛を囁いた。初めのうちはそういう状況も楽しんでしまっていて、徐々にお店に通う頻度や使う金額が増えていった。それに伴って仕事の出勤日も増えていき、朝から晩までなんて日もあったけれど気が病むこともなく、家に帰り、お風呂に入ることにはその日接客した人の顔なんて全て忘れていた。ただそこまで馬鹿ではないので、一か月に稼いだ額全てを使ったり、いわゆる「掛け」で飲んだりはしなかった。結局は短期的な借金のようなものだし、あまり気持ちがよくなかったので、その日飲んだ分をその日のうちに全額清算するようにしていた。
初めのうちは楽しかった。まだ二十歳でそこまで大人になりきれていなかったのもあって「そういう自分」にも陶酔していたし、何より全てが新鮮で、経験できることは経験しようと思っていた。しかしながら指名し始めて一か月半経った頃には、その男は私の全てを管理しようとしてきた。私のスケジュールや稼いだ額、メッセージのやり取りにいたるまで、全てだ。歌舞伎町ではよくある手法ではあるが、そうやって少しずつ窮屈な関係に押し込められていくうちにだんだん息苦しさを感じるようになった。
ただ、「期待されること」に弱い私にとってこの世界は丁度よく収まりすぎてて、頭の中では「そろそろこんなところから抜け出さないと」と考えつつも、現状維持というぬるま湯に浸り続けていた。
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✴︎KKベストセラーズ 新刊発売決定✴︎
神野藍 著『私をほどく〜 AV女優「渡辺まお」回顧録〜』
が6月17日に発売決定・予約開始!
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「元エリートAV女優のリアルを綴った
とても貴重な、心強い書き手の登場です!」
作家・鈴木涼美さんも絶賛した衝撃エッセイが誕生
✴︎目次✴︎
はじめに
#1 すべての始まり
#2 脱出
#3 初撮影
#4 女優としてのタイムリミット
#5 精子とアイスクリーム
#6 「ここから早く帰りたい」
#7 東京でのはじまり
#8 私の家族
#9 空虚な幸福
#10 「一生をかけて後悔させてやる」
#11 発作
#12 AV女優になった理由
#13 セックスを売り物にするということ
#14 20万でセックスさせてくれませんか
#15 AV女優の出口は何もない荒野だ
#16 後悔のない人生の作り方
#17 刻まれた傷たち
#18 出演契約書
#19 善意の皮を被った欲の怪物たち
#20 彼女の存在
#21 「かわいそう」のシンボル
#22 私が殺したものたち
#23 28錠1シート
#24 無為
#25 近寄る死の気配
#26 帰りたがっている場所
#27 私との約束
#28 読書について1
#29 読書について2
#30 孤独にならなかった
#31 人生の新陳代謝
#32 「私を忘れて、幸せになるな」
#33 戦闘宣言
#34 「自衛しろ」と言われても
#35 セックスドール
#36 言葉の代わりとなるもの
#37 雪とふるさと
#38 苦痛を換金する
#39 暗い森を歩く
#40 業
#41 四度目の誕生日
#42 私を私たらしめるもの
#43 ここじゃないどこかに行きたかった
#44 進むために止まる
#45 「好きだからしょうがなかったんだ」
#46 欲しいものの正体
#47 あの子は馬鹿だから
#48 言葉を前にして
#49 私をほどく
#50 あの頃の私へ
おわりに